中国、半導体自立に活路 「ムーアの法則」変質で 編集委員 小柳建彦 米中衝突 アジアBiz ファーウェイ

Time:2020-10-13Department:

ASML製EUV露光装置は1機200億円前後と高額だ(同社工場の組み立て現場。2019年4月撮影)=ASML提供


米政府の輸出規制で、中国の半導体業界は窮地に追い込まれるのか――。


華為技術(ファーウェイ)や半導体受託生産の中芯国際集成電路製造(SMIC)などへ半導体や半導体製造装置、設計ソフトの供給を制限する措置で、世界の多くの関連企業が両社との取引を9月後半からストップした。


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Nikkei Views

編集委員が日々のニュースを取り上げ、独自の切り口で分析します。

だが、迂回路がないとは言い切れない。中国には1000社を超える新興の半導体関連企業があるという。ファーウェイやSMICがそれらの企業によって輸入される半導体チップや設計ソフト、製造装置を買い集めれば、半導体の調達や製造設備拡充が事実上できるようになる。


好調な業績が続く米半導体設計自動化ソフト大手、シノプシスのアート・デジアス会長は「中国では(ファーウェイ以外の)数多くの半導体関連企業が(設計ソフトを)たくさん買っている」と明言する。中国国内での転売が否定できない状況となっている。


台湾ファブレス半導体最大手の聯発科技(メディアテック)は米国向け売り上げが少ない。今はファーウェイとの取引を止めているものの、米国の制裁覚悟でファーウェイからの発注に応じる可能性もささやかれる。メディアテックは最終ユーザーの内訳を明かさずに製造を発注できるとみられ、半導体受託製造世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)も受けられるかもしれない。


短期的にも輸出規制の効果には疑問が残るが、中長期的に米日欧の半導体技術の優位が貿易管理で維持できるかは一段と不透明だ。



北京で開かれた展示会でのファーウェイのブース(9月)=ロイター

というのも現在、半導体チップ1個に搭載されるトランジスタ素子数が1年半~2年で2倍になる、いわゆる「ムーアの法則」を継続する技術の主役が根本的に替わりつつある。技術の世代交代が先行者の優位を揺るがし、中国のような後続者にもキャッチアップの機会をもたらす可能性があるのだ。


従来の集積度向上はシリコン基板の平面上に張り巡らされた回路の線幅を細くする「微細化」で実現してきた。ところが、線幅が35ナノメートル(1ナノ=10億分の1)あたりまで小さくなった2000年代後半から技術的に難しくなり微細化の歩みは遅くなる一方だ。


そこで、平面上での微細化よりも素子を縦に積んだり、回路面そのものを何層にも重ねたりすることでチップ1個当たりの素子数を増やす「立体化」の技術がムーアの法則を継続する主役になろうとしている。


スマホの写真保存などに使うフラッシュメモリーではすでに立体化が標準となった。回路面を128層まで重ねる立体化が進む一方、一時は16ナノメートル前後まで微細化が進んだ回路線幅が今では20~30ナノメートルに逆戻りしたという。


パソコンやスマホの「頭脳」にあたるロジック半導体や、それが処理する情報を広げて置いておく「作業机」にあたるDRAMメモリー半導体でも微細化から立体化に主役交代が起きようとしている。


立体化であれば、光線で回路図を基板に投射する「露光」と呼ばれる半導体製造工程で、波長が極端に短い「極端紫外線(EUV)」を使った最先端の技術でなくても、高性能半導体を作る道が開ける。


EUVを使うには成膜や洗浄といったすべての工程でもEUV対応の最先端装置が必要になるが、立体化なら従来の微細度を前提にした装置に手を加えれば道が開ける。それも決して簡単ではないが、「EUV化に比べると難易度もコストもハードルが下がる。それにまだフラッシュメモリー以外では立体化技術は確立していない」と、半導体事業コンサルタントの大山聡氏は言う。



現在EUVによる露光装置が作れるのは世界でオランダのASMLだけ。その基礎技術の知的財産権の多くは米国が持つ。このためオランダ政府もASMLによるEUV装置の中国への輸出を許可していない。EUV以外の露光装置なら、日本のニコンとキヤノンが作れる。製造装置の市場調査を手掛けるグローバルネットの推計によると、EUVの1世代前の露光装置では、ニコンのシェアは19年で8%、2世代前だと35%。3世代前はキヤノンが26%を握る。立体化に合う研究開発を拡充すればシェアの再拡大も可能だ。


「EUV以外の新型の露光装置を共同開発するよう中国企業から両社に資金提供のオファーが盛んに来ている」と、業界関係者は話す。このほか製造装置の開発や設計ソフトの開発も中国政府は本気で取り組み始めている。


中国のDRAM製造体制確立のため、半導体大手の紫光集団に昨秋、高級副総裁として迎えられた坂本幸雄・元エルピーダ社長は中国で企業幹部に「トランプさんのおかげで、我々は技術を自力で開発する決心がついた」と笑顔で言われたという。


たしかに25年までに半導体自給率を7割に上げるという中国の国家目標の達成はほぼなくなった。しかし長期的にみると、米国による技術の「兵糧攻め」は中国の半導体産業の自立・育成をむしろ後押しする可能性がある。


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